散骨とは、火葬された遺骨を墓地に埋葬するのではなく、遺灰にして海や山河などに撒くことです。生を終えた人が自然に回帰して安らかに平和に眠ることを願って行なわれる葬礼です。日本で散骨という言葉が広く聞かれるようになったのは、ここ二十年ほどのことですが、この葬礼方法は古代から世界中で行なわれてきました。歴史の最も古いところでは仏教の発祥地であるインドのガンジス川におけるものです。

そして、ここから広くアジア地域に波及していき、その後、ヨーロッパにも波及し、海や芝生などへの遺骨の撒布が行われています。日本での散骨の歴史も実は大変古いものです。よく知られているところでは、平安時代初期の淳和天皇です。「骨を砕いて粉と為し、之を山中に散らすべし」との遺言を残し、事実、京都の小塩山山頂に淳和天王の遺骨は撒布されたという記録が残っています。

また、12世紀には浄土真宗の開祖・親鸞上人が「それがし閉眼せば、加茂川に入れてうほ(魚)にあたうべし」と言い残し、こちらも遺言通りに実行されております。一般庶民の間でも、江戸時代に入って檀家制度が確立するまでは、この葬礼方法はしごく一般的なものだったのです。檀家制度確立以降は、墓地への埋葬方法が一般的になりました。そして、戦後の1948年には「墓地、埋葬等に関する法律」ができ、墓地への埋葬以外の葬礼は禁止されました。

近年になって、散骨が行なわれるようになった契機は、1990年代初頭の、葬送の自由を求める人たちの行動でした。この葬送の自由の求めについて、法務省は「葬送を目的とし節度を持って行なう限り、死体遺棄には当たらない」という判断を示しました。社会および人々の意識の変化に国も気づかないわけにはいかなかったのでしょう。

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